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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)435号 決定 1965年3月15日

抗告人 群馬県信用保証協会

主文

原決定を取消す。

本件競落は、これを許さない。

理由

一、抗告理由は、別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

抵当権の実行による不動産競売制度は、裁判所の関与の下に抵当不動産を競売し、その売得金により、その不動産を中心とする競売法第二七条第三項所定の各利害関係人の私権に満足を与えることを目的とするものであるから、裁判所としては、抵当不動産をできるかぎり高価に売却するよう配慮すべきであり、従つて、数箇の不動産につき競売の申立が為された場合、その各不動産が、位置・形状構造・機能の諸点から客観的経済的に観察し、有機的に結合された一体を為すものと見られ、これを個別に競売するより一括して競売した方が著しく高価に売却しうることが明白に予測される場合には、抵当権者相互の関係上売得金の配当に支障を来すとか、一部の不動産の売得金を以て各債権者の債権を弁済し、かつ、競売費用を償うに足りるなど一括競売を不当とする事由のないかぎり、一括競売の方法によるべきであり、これを個別に競売するのは、その不動産が右の如き有機的関係において有する価額を無視して売却することを認めることになり、裁判所の裁量権の範囲を超えて競売を為す違法を犯すものというべきである。これを本件について見るに、記録によると、本件抵当物件たる

(一)  沼田市字根岸四二四三番の一

宅地 六六坪

(二)  同所四二四四番

宅地 一四五坪

(三)  同所四二四三番地の二、四二四四番地

家屋番号 榛名町一四二番

木造瓦葺二階建居宅兼店舗一棟建坪三五坪二合四勺

外二階坪一四坪

附属建物

木造亜鉛葺平家建作業所一棟建坪二四坪七合五勺

木造亜鉛葺平家建作業所一棟建坪一六坪五合

木造亜鉛葺平家建乾燥場一棟建坪二四坪

全部につき、株式会社群馬銀行のため順位一番の共同根抵当権が設定され、右根抵当権設定当時、右土地と家屋は、いずれも債務者真藤一一の所有であり、(三)の家屋は(二)の土地の上にあるので、これを個別に競売に付し、(二)の土地と(三)の家屋のいずれか一方のみ競落されると、(二)の土地に地上権が発生する関係上、(二)の土地の価格は、(三)の家屋と一括して競売した場合に較べ、著しく低下することは明らかであり、一方、(一)(二)の土地及び(三)の家屋については、株式会社群馬銀行の右根抵当権に先順する抵当権はないのであるから、(一)(二)の土地及び(三)の家屋を一括競売しても売得金の配当に支障を来すことがなく、又、株式会社群馬銀行の右根抵当権の元本極度額は一三〇万円であり、このほか、(一)(二)の土地及び(三)の家屋につき、群馬信用組合のため元本極度額八〇万円の順位二番の共同根抵当権、森川勝雄のため元本極度額二〇〇万円の順位三番の共同根抵当権、株式会社原商店のため元本極度額一三〇万円の順位五番の共同根抵当権が設定され、(一)の土地及び(三)の家屋につき、筑比地一郎のため債権額五〇万円の順位四番の共同抵当権が設定され、群馬信用組合の右根抵当権は、代位弁済により、抗告人である群馬県信用保証協会に移転し、その現存債権額が六〇万八七九二円及び内五九万三二七二円に対する昭和三七年七月一三日から完済まで日歩四銭二厘の割合による遅延損害金であることが認められるので、抗告人を除くその余の各根抵当権者及び抵当権者の現存債権額を調査した上、(三)の家屋の評価額を以てしては、各債権者の債権を弁済し、かつ、競売費用を償うに足りないときは、少くとも、(二)の土地と(三)の家屋は一括して競売すべきであるのに、原審が各債権者の現存債権額を調査した形跡は見られず、個別競売すべき格別の理由もないのに個別競売に付したのは、裁量権の範囲を超えた違法の競売というべく、これに基く本件競落は、これを許すべきでない。(なお、(三)の家屋は、沼田市字根岸四二四三番地の二と四二四四番地に跨つて存在し、右四二四三番地の二は、その地番から見て(一)の土地と接着していることがうかがわれるのみならず、本件競売申立人たる抗告人は、当初から(一)(二)の土地と(三)の家屋の一括競売を申立てているのであるから、抗告人として単に一括競売を申立てるのみならず、一括競売を至当とする資料を積極的に裁判所に提出すべきであることは当然のことながら、原審としても、すべからく、(一)の土地と(三)の家屋とが前に説明した如き有機的一体を為すものであるかどうかについて調査し、その結果を記録上明らかにするとともに、有機的一体を為すものと認められ、かつ、(二)の土地及び(三)の家屋の売得金を以て全債権を満足するに足りないと認められたときは、(一)(二)の土地及び(三)の家屋を一括競売に付すべきである。)

次に、本件競売申立人たる抗告人の根抵当権の目的は(一)(二)の土地及び(三)の家屋のみであるところ、原審は、(三)の家屋内にある機械器具をも右家屋と一括して競売に付したのであるが右家屋の登記簿謄本によると、(一)の土地及び(三)の家屋の順位四番の共同抵当権者たる筑比地一郎は、(三)の家屋内にある機械器具についても工場抵当法による抵当権を設定していることが認められ、このような場合、先順位者たる抗告人の右家屋に対する根抵当権は当然右家屋内の機械器具にもその効力を及ぼすのみならず、工場たる家屋と右家屋内にある機械器具とは一括競売するほかないので、原審が(三)の家屋と右家屋内にある機械器具を一括競売したそのこと自体には何ら違法の点はない。たゞ、右機械器具について登記を経由した抵当権者は筑比地一郎のみであるから、他の抵当権者が右機械器具の売得金から優先弁済を受けられない関係上、家屋と機械器具の価額を個別に公告せずに一括の価額で競売すると、売得金の配当が不可能になるので、このような場合は、家屋と機械器具と各別の最低競売価額を定めてこれを公告し、しかも一括競売するほか方法がないというべきであるのに、原審は、各別の最低競売価額を定めず、一括した最低競売価額を定めてこれを公告したので、この点、最低競売価額の公告に違法があるといわざるを得ず、右公告に基く競落は、これを許すべきでない。

されば、本件競落は、右の二点において違法であり、これを許すべきでないから、原決定を取消すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 仁分百合人 小山俊彦 渡辺惺)

抗告理由

第一、競売は可成多額の競落代金を得て、多額の弁済をなして、債権者の目的を達成するとともに、一方多額の競落代金を得て、債務者が所定の債務を弁償して、尚余剰を得るにおいて初めて債権者も債務者も共に救済されるものと謂うべきである、要するに競売は先づ高価の競落代金を得る事を主眼とするものである。通常の場合において最高価申出者に競落を許可するのも、多額の代金を得る目的に従うものである。

第二、抵当権の目的物である本件土地建物は、競売によつて所有権の移転があつた以上は、もとより其の所有者の所有に属するものである事は疑いのない所であるが、其の目的物はあくまで財産として国家社会の宝として、最も有用に其の効用を果たさせなければならないし左様の目的を達成するように処置すべきことは法律を適用するものの義務である。即ち競売によつて其の目的の効用を減殺する事を少くする事は勿論出来得る限り、其の財産の効用を発揮するに努めなければならない、かく観じ来ると競売は高価の競落と目的物の効果の発揮とを庶幾する事を要し極めて面倒の事務である。

第三、一括競売によるか、個別競売によるかわ、単に事務処理にのみに「なずまず」価格の保持と財産の効用とを達成するに、何れが適当なるかに求めなければならない。

宅地と其の上に存在する建物とは合一して、高度の価値を発揮する事が出来るものであることは、今更説明を加える必要もなく明瞭事である、他人の土地上にある家屋に地上権を認める所以も亦土地家屋を同一の所有者に使用管理させ又は少くとも同一の所有者に管理使用をなさしめるに近い状態におくと云う理念によるものである。

土地家屋は同一の所有者の所有に属させる事が、価格の点からも財産の効用と云う上からも理想であり、実際においても希望されておる所であるので、抗告人は競売の申立の際にも土地家屋を一括競売にして欲しいと強く希望した、ところが競落許可決定を見ると家屋丈競落許可された、そうすると宅地は新期日に果して競売されるであろうか、此の土地の上に存する家屋について暫らく地上権の存在も許容しなければならない、土地の効用は封じられた事になる、土地家屋が同一人の所有に属すると云う理想を競売によつて破つた事になる、論者は一方の家屋は競落され一方の土地は競落されなくとも仕方がないではないかと謂われるかも知れないがそうすれば競売によつて抵当権は事実上失われる事になる、土地家屋を同時に競売に付す場合は、先づ一括競売に付し、どうしても競買人がない場合に考量すべきである、それだけの親切は法律解釈運用者の義務である。

抗告人は、土地家屋は一括競売にするのが原則とすべきであると確信するので抗告人が本件競売申立において、一括競売を求めたのは適当であつて、原決定の様に家屋と土地とを個別に競売する事は価格を害し財産の効用を害するもので抗告人の承服し得ないところである。

第四、競落許可決定には、「不動産に対し最高価金一、二〇〇、〇〇〇円の競買申し出をしたのでその競落を許可する」とあるが競落物件には右建物に附属すると称する、機械器具があることは目録の示す所であつて、うたがいをいるるの余地はない、ところが此の附属物件は、本件競落人筑比地一郎の任意競売の申立によつて初めて本件競売の目的物として顕現されたものと思料するが、競落許可については、この物件の価格を明らかにされていないし、競落許可決定には単に「不動産」とのみ表示されている点から見て目録記載の機械類は包含されないと認めるのか、又は競落価格の一、二〇〇、〇〇〇円中には機械類の価格として何程の価格が含まれるのか、債権者としても債務者としても重大の利害の存する所である、競落許可決定では斯様の重大事項が明瞭にされていない。

第五、本件競落許可決定は、土地家屋を一括競売に付さなかつた誤りがあり、任意競売申立人の物件を価格の明示をしないで、土地家屋の競売に加えて競売に付した事は不動産競売と動産競売とを混同し、且つ価格の考量をしないでなした決定であつて、延いては配当等にも極めて困難を招来すべき事明らかで、抗告人は原決定を取消し新の裁判を求むべきものと思料して此の抗告に及びました。

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